名誉館長の部屋

英国王立キュー植物園園長来日

2017.10.03

世界の植物園のセンター、キュー植物園の園長、リチャード ディベレルさんが9月16日に東京大学で「私たちの植物園―――今そしてこれから」と題目で講演をされました。英国ロンドン郊外に1759年開園の植物園は現在約1.2万種の植物を栽培、800人の職員(うち300人が科学者、250人が栽培専門家)という大組織です。1759年初代のWilliam Aiton氏以来、園長は植物学者と決まっていましたが、2012年、17代目にしてRichard Deverell氏という経営者に入れ替わりました。氏は1965年生まれ、ケンブリッジ大学卒、経営コンサルタントとして数年勤務、BBCに20年勤務、BBCニュースのウエッブサイト立ち上げなどの傍らキュー植物園の財務、監査、リスク委員会に6年間携さわれたそうです。キューには科学部門園長や栽培部門園長なども設けられていますが、今ここにきて植物専門でない方が園長に、しかし広報や展示紹介など料理の仕方で美味しくも、不味くもなる世界、しかも重要な財政のセンスも要求される、きっと賢明な選択をされたのでしょう。講演会の合間に園長夫妻にご挨拶をしました。1年間、キュー植物園の高山植物部門などお世話になったことを話すと、ご夫妻は「何年頃の学生?今はどうしているの?そしてキューは世界にネットワークがあるから本当に素晴らしい」と話されます。咲くやこの花館の資料を手渡すと、「このキソウテンガイはすごい、食虫植物展の目立つチラシにこれもとても良い、イギリスでも食虫植物はとても人気があるよ、日本訪問は初めてで、明後日帰国するので残念ながら大阪に寄れない」とのこと、14代目園長のSir Ghillean Prance,15代目のSir Peter Craneも何度か来館されていますのでぜひと、するとSir P.Craneは現在アメリカのバージニアにて活躍されているので会いに行ったとのこと、話は止まらない。

 さて、肝心のR.ディベレル氏の講演は世界の植物園の歴史の話から、まずは「植物学の祖」と称される、紀元前4世紀の植物学者で哲学者でもあったアテネのテオプラストス紹介から、イタリアパドヴァの1545年の植物園、1621年のオックスフォード大学植物園、今回の会場の東大附属の小石川植物園(徳川薬草園)は1684年、そしてキュー植物園は1759年に開園しましたまで続きました。そしてキューの役割は、一般の植物園とは違うサイエンティフィックな場であると強調されました。ジーンバンク(シードバンク)での種子保存による保護、DNAによる分類、絶滅危惧植物の扱い、子供等への教育など単に楽しい、美しいだけの価値ではないところにポリシーを置いています。私もDr. Peter Thompsonの元で種子発芽適温の調査をサーモバー(50-0℃)で行ったこともありましたが、植物園の建物の中など目につきにくいところで大切な研究が昔から行われています。

 今回大切な経営についてまでは言及されませんでしたが、私ども観賞用に近い植物園でも揺るがない方針、植物に関する調査、情報収集、栽培だけではなく運営、広報などキューに学ぶところはいつまでも絶えません。

 

 

英国王立キュー植物園

Richard Deverellshi園長夫妻
Kew. Palm House
Kew, Herbarium  植物標本室

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