名誉館長の部屋

日本一大きなサバクオモト(キソウテンガイ)に花がそして

2016.07.04

当館ではキソウテンガイ(Welwitschia mirabilis)を数株育てています。以前に高知県立牧野植物園の前園長の小山鐵夫博士が来館された時に、一番大きな雄株を見られ、ベルリン植物園についで大きく育っていると話をされていました。この雄株そして別の雌株にも花がついています。  和名はサバクオモト、しかし園芸商の石田謙六氏がつけたキソウテンガイの園芸名が一般化しています。学名のウェルウィッチアはオーストリアの植物採集探検家ヴェルヴィッチュ(Friedrich Welwitsch 1806-1872年)の名前に由来します。氏はウイン大学では薬学を学びましたが1839年にポルトガルに移り、現地の植物を調査、その後ポルトガル王に実績を評価され1852年に現在のアンゴラの植物調査の依頼を受けて出かけました。その際にキソウテンガイを見つけて紹介をしました。  キソウテンガイは裸子植物(マツ、イチョウのように胚珠が露出していて風媒花が多い植物)で雌雄異株です。雌花は長さ約5cm、マツの球果を想像させます。本種の球果をよく見ると蜜が出ており口にするとかなり甘く、カメムシの類など昆虫が誘われるそうです。また、種子から育てて50年程度の当館最大の株には雄花がついています。雄花には退化した胚珠や小胞子嚢柄が見られます。花粉は風または昆虫などにより運ばれます。うまく受粉すると翼を持つ種子ができます。その種子は風で飛ばされることもあります。2〜4月の雨期頃に発芽しますが地下水が利用できる場所に生き残ります。根は水分のある場所を求めます。当館でも以前サボテン並みに潅水を控えると枯死したことがあり、ほどよい水分補給が重要である事がわかりました。我々が種子から栽培を行う場合は翼を取り除いてから播種をします。翼にカビがよく生えるからです。ところで現地がそれでは安全な状態かというと、現地で花粉を運んでくれるカメムシの一種オドントプス・セキスプンクタツス(Odontopus sexpunctatus)がアスペルギルス属の菌(Aspergillus niger var.phoenicis)の胞子を雌花につけることにより汚染が起こります。その影響で発芽能力の消失、また発芽後立ち枯れを起こすなどの問題を生じています。何が原因でこのような不毛の地になったのでしょうか。カメムシがいなくて風媒で増殖していればよかったのでしょうか。今や植物園など原産地外で雄株雌株が揃い実った種子が順調に育ち、野生種子は順調に育たない現象が生じています。少しキソウテンガイから話しは離れますが、ハワイのギンケンソウの絶滅危機の問題、これは花粉を運ぶチビムカシハナバチの卵や幼虫を外来のアルゼンチンアリが捕食するのが原因です。フィリピンにおける森林伐採によるヒスイカズラの減少、そして東南アジアに於ける「人にやさしい洗剤づくり」の材料のアブラヤシ栽培が自然破壊の元凶にと人間の活動が関与していることが多いようです。海外での自然破壊に日本への輸出に伴うものもあります。冒頭に「日本一大きなキソウテンガイ」と表記しましたが、「日本初」、「日本唯一」など「人寄せパンダ」のような言葉は分かりやすい表現ですが、大切な地球にとっては空しい表現に過ぎません。地道にそれぞれの現場で調査活動、対策などで動かれている方々には頭が上がりません。日本植物園協会加入園でもこのような活動を行われている園もありますが、当館では植物の展示や講座の中で何かを得て頂けたらと願っています。  第137回「咲くや塾」では関連したお話を伺えます。7月15日(金)13:30−16:00には「モンゴルの乾燥地植物の意味」を内蒙古農業大学の生態環境学部教授の馬 玉明氏にスピーカーになっていただきます。また、現代水墨画の第一人者の京都造形芸術大学教授 李 庚氏にも「水墨画と植物」をお話いただきます。是非、貴重な機会ですのでご参加頂けたらと思います。
雄花
雌花

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