名誉館長の部屋

『フラワーショウ』

2016.09.06

「大切なものはね、目には見えないんだよ」前々回に取り上げさせて貰ったバオバブが登場する『星の王子さま』の中にでてくる言葉です。

普段、生活していて見えないもの、見えにくいもの、多くの人の心に支えられて生きていることすら忘れがちになっています。また、地球に生きているのに地球を傷つけています。多くの植物、動物に生かされているのに、自分勝手な生活に走ってしまいます。

最近の映画、有川浩原氏作の『植物図鑑』では「野草」が背景のつなぎになっていますが、アイルランドで制作された映画『フラワーショウ』はイギリスのRHS(英国王立園芸協会)のチェルシーショーへの出展にまつわる実話です。1974年アイルランド生まれ、田舎で育った野草を愛するメアリー・レイノルズ(Mary Reynolds)さんの夢は自然を活かした庭園を世に送り出す事でした。チェルシーショーを下見に来たメアリーさんが豪華絢爛な花のデコレーションを見ていると「馬鹿げている。人もデザインも横柄で」と呟いている若者、植物学者のクリスティ・コラード(Christy Collard)氏に出会いました。アイルランドのコークにある農場Future Forestsの所有者の息子でエチオピアの緑化に尽力している人物です。新妻香織さん率いる緑化団体「フー太郎の森」の森基金の援助の元、クリスティさんは日夜努力してきました。クリスティさんの助けなしではアイルランド人の心とも言うべき自然を取入れたガーデンは実現しません。チェルシー嫌いの彼をメアリーさんはエチオピアまで必死で追いかけ最後には彼の助けを得て、数々の苦労をしながら、恵まれた環境にある多くのライバルを抑えて2002年のチェルシーショーのショーガーデン部門で金賞を受賞、28歳と歴代最年少の記録も残しました。注目されたのは彼女の野草とサンザシだけのガーデンでした。隣のチャールズ皇太子出展のガーデンは薬草園で野草が多く、シンプルだったのでメアリーさんの作品をチャールズ皇太子が自分の出展と勘違いをするといった逸話も残っています。それにしても人工的なガーデンの反動というか、自然への回帰というか感謝というか、野草が注目されるケースが多く、今年3月にグレートディクスターガーデン紹介の「咲くや塾」のためにイギリスから職員が見えましたが、その際にもメドウガーデンと称する野草のガーデンを強調されていました。

身近なところでは私の「はとこ」に当たる脚本家で劇作家の山谷馨さん(ペンネーム:倉本聰さん)も父の山谷太郎さんの影響で鳥好き、花好きで自然と人にこだわりをもち『風のガーデン』、『北の国から』などを書き上げました。氏の率いる北海道の富良野自然塾では、ゴルフ場跡を元の植生に戻すのに、近隣の山の植物の種子や実生苗を集めては自然に戻す運動を行なってられます。

自然が美しいのはすべてのものが命をもって調和して生きているからです。私もこの気持ちから、今迄仕事をしてきた各植物園では野生種を導入、人工的な園芸品種など自然に反するものを可能な限り避けてきました。それだけに映画『フラワーショウ』を見た際のメアリーさんの苦労は涙を誘いました。

金賞のアイリッシュガーデン

鶴見緑地に珍しいアイルランドガーデンが

2017年1月4~9日大阪梅田の阪急百貨店9階の梅田ギャラリーにてフラワーショーが企画されています。当館から出展の自然に近いガーデンのデザインと植物揃えを今から進めていきます。今年1月13日から催されたものと同様にバラクライングリッシュガーデンの取りまとめで当館の展示紹介、広報活動も行なわせて貰います。

チャールズ皇太子の話がでましたが、今年は6月16−18日に日本植物園協会総会が長野県の白馬五竜高山植物園で開催されました。その会場で日本植物園協会総裁の秋篠宮文仁親王とお話をする機会がありました。「最近は咲くやこの花館の植物はどうですか?」、とのご質問に花が咲きました。最後に咲くやこの花館に来館されてから20年ほどになるのと、2017年6月の日植協総会は大阪市立大学付属植物園が担当、大阪市での開催になるので、ぜひ咲くやこの花館へという話になりました。日本もイギリスもロイヤルファミリーが植物好きなのはありがたい事です。両国とも古くより植物への興味がつきない人が多いことの影響もあるでしょう。そして自然への感謝を忘れていない気持ちを国の内外問わず伝えられている方々が少なくないのも嬉しいことです。

咲くやこの花館にはプチイングリッシュガーデン、ロックガーデン、メディタレニアン(地中海)ガーデンがあります。そして鶴見緑地の国際庭園には多数の国のガーデンが1990年の花博以来残されています。前述の『チェルシーショウ』で金賞を獲得したケルトの魂を宿した日本では珍しい「アイルランド庭園」も健在です。咲くやこの花館をお訪ねの折にはぜひご覧下さい。

鶴見緑地国際庭園アイルランド庭園

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