名誉館長の部屋

咲くやこの花館でのひととき

2016.10.02

学びの夏

今年の夏は暑い日が続きましたが、ようやく少し楽になってきました。猛暑にも拘らず来館を頂いた皆様から「暑い!」の言葉が殆ど聞かれないで、植物展示最後の高山植物室でほっとされ「ワー涼しい!」としばし別世界を楽しまれている方が多く、ありがたい毎日でした。

 当館では研修、教室、ワークショップ、ツアーなどに参加頂く方が少なくありません。その他に学芸員資格取得の実習、教員研修、中学生の職業体験、農業高等学校・緑関係のボランティアグループ・シルバーカレッジなど園芸コースの生徒さんなど教育関係の団体の皆さんの研修が続きます。

 毎年8月の最終週に実施されている教員研修や学芸員資格研修は前者が3日間、後者は5日間ですが、今年は地元のみどり小学校から2名の教員の方に参加いただきました。3日間に植物園の役目、機能そして熱帯、乾燥地植物、山野草の栽培法をマスターして頂きました。指導者の先生に植物に詳しくなって貰う、本当にありがたいことです。先日米国人教師が帰国子女の研修に小学生を連れて来られました。児童の持つ英語のQAのプリントを見せて貰いました。日本とは発想の違う意見を問うタイプのQになっており驚かされました。早速教師に話を伺うと、館内の手づくりの英文付案内板を参考にされたそうで、今後のために一部プリントを頂戴しました。また米国人教師はもしバックヤードなどで熟していない緑のバナナがあれば、産地から出荷時の状態を教えたいとのリクエストもありました。以前にもインターナショナルスクールなどの教師が熱心に児童に解説をされており理想的な姿と感心させられました。少人数だから実行しやすいこともありますが、多人数の団体で入館の児童、生徒にも植物に興味をもって貰える策も練ってきました。当館制作のクイズラリーが一般的で、職員やボランティアによる解説の試行も行なってきています。大阪市教育センターを通して、先生向け当館の植物テキストの制作や、学校関係の文化祭などの会場にして貰い、家族連れで学校行事見学そして植物もご覧いただいています。私の目に焼け付いているのは、英国王立キュー植物園留学中にしばしば目にしてきた、オーダーベット(教育用に植物を分類別に育てている花壇で、日本では東京大学の小石川植物園にあります。)で教師とともに勉強をする子供達の姿で、当館でも植物から何かを得てほしいとその方法を模索しています。

咲くや塾に海外からの講師も

今年は咲くや塾の講師としてイギリスそしてモンゴルからお出でいただきました。7月15日にモンゴルの内蒙古農業大学・生態環境学部の馬玉明教授から乾燥地の植物やその現状をお話頂きました。また、モンゴルの話しに引き続き、現在中国を代表する水墨画の巨匠で京都造形芸術大学教授の李庚教授のお話が伺えました。塾の前に館内を一巡しました。お二人の注目を浴びたのがメディタレニアンガーデンのギョリュウ(英名タマリスク、学名Tamarix sp.)でした。ユーラシア、アフリカの砂漠地などの乾燥地に約50種が見られます。薄ピンクの花咲くギョリュウの元で、「モンゴルの乾燥地では最高でも1mの高さなのに、このギョリュウは4mもあるではないか、何年生きている、100年以上?」という質問が、「ギョリュウの仲間は50種余りあるので種の同定は容易ではないが、同種としても雨の多い日本と僅かなモンゴルでは成長速度が違うのでは」と答えると、馬教授からは「確かに」とすぐに納得いただけました。また、石組みのある高山植物室にはいると、馬先生は「すごい自然が」と、一方現代水墨画の巨匠と言われる李教授は「これは正しく須弥山だ」としばらく佇まれていました。須弥山といえば私は妙高山の麓で仕事を長くしていたのでピントきました。インド仏教で世界の中心にある高山、シュメール山の音訳が須弥山、意訳が妙高山で西遊記の三蔵法師が名付けたと聞きます。果てしもない世界に話題が飛びます。

野球界からも咲くやに

話しは変わり9月25日にNPO法人アジア太平洋心臓病学会主催、沢井製薬株式会社が特別協賛で「ワールドハートデー2016 健康ハートウオーク&トーク」が鶴見緑地と当館で開催されました。午前中は公園内でのウオークが行なわれ、3300人の希望者でしたが、選ばれた2400人が参加されました。午後からは当館でのハートトークに300人余りの方に参加頂きました。健康の秘訣、笑いや食べ物の重要性を専門家の大平哲也先生、和泉徹先生がされ、ゲストのMBSの松井愛さんそして元野球選手でコーチの藪恵壹選手も交え、大切かつ楽しい2時間のトークに会場全体が盛り上がりました。

スポーツの世界の方にも是非当館の植物を楽しんで頂きたい。そう言った願いからトークショー前に藪選手に館内案内にお誘いしました。通常とは逆に極地、高山植物室から熱帯に向かいました。今迄訪問された熱帯地方の風景を思い出されたりしながら一巡しました。するともう一度高山、極地の部屋に戻りたいとのこと、たどり着くと「北極圏と南極のどちらが好きか」の質問を貰いました。「南極は訪ねていませんが、66度33分以北の北極圏はアラスカ、スカンジナビアで許可を得て植物調査や採集を半月余り行ないました。夏の花盛りに雪が降っても、地中30cmからは永久凍土でもへっちゃら、温度差で花を咲かせ、短い期間だが種々の植物の活動ぶりが観察できるので北極圏が好き」と答えました。そして、藪選手は「この涼しい部屋が大好き。」と話され、「コマクサが羨ましい」とも。折角なのでコマクサの解説板の前で記念写真を1枚パチリ!何だか、背景の景色や解説板が小さく見えるのは気のせいでもありません。皆さんも、紹介させて頂いた方も咲くやこの花館でのひととき、注目されるものは色々ですね。

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