名誉館長の部屋

「花と緑の東北復興支援助成事業」の様子

2018.01.04

<岩手県久慈市立小袖小学校>

この小学校は現在全生徒数28名と小規模で家庭的な教育を展開されています。小袖は太平洋側に位置して東北地方でも比較的穏やかな気候で、その上、海、山と自然に恵まれています。2013年のNHK朝の連続ドラマ「あまちゃん」の舞台として注目された場所でもあります。

 ここで現在校長をされている新屋敏明先生は、以前の赴任先であった盛岡で花育アドバイザーの佐藤幸子さんに出会い、子供向き花栽培のノウハウをマスターされました。新屋先生の活動の一部であった植物栽培指導は生徒間に深く浸透していました。早朝から花の手入れを行い、花に囲まれて寛ぐだけではなく、播種の技術を知り、植物名についても普通に、ペチュニア‘サフィニア’、インパチエンス‘サンパチエンス’、木生ベゴニア‘ワッパー’等の品種名が語られていました。その上、生徒にただ知識を持たすだけではなく、生きていくのに大切なものを身につけさせているのが見え隠れしていました。小袖は東日本大震災で津波、そして2016年の台風10号で被害がありましたが、生徒たちは花を育て花に育てられ元気に成長しています。こういう場面での支援助成は大きな価値があるのが確認できました。校舎中庭に若干の樹木、灌木、宿根草が植えられていましたが、その一部にでも岩手県に自生の半日陰植物(エビネ、ナツエビネ、ヤマシャクヤク、シャクナゲ、イカリソウ、フクジュソウ、オウレン、リンドウ、カタクリなど)を育てることや近隣の自然を観察することで日本の植物の大切さ、素晴らしさも確認できればと願いました。

咲くやこの花館でも地元の大阪市の新任の先生に3日間の植物栽培研修や小学生の職業体験、その他子供対象の教室もありますが、新屋校長先生の子供に対する思いなど学ぶべきことが沢山ありました。

 

<大槌町鹿子踊用ドロノキ植林プロジェクト>

 東日本大震災後今までとは違った生活環境を強いられてきた岩手県大槌町の人々、将来に不安が感じられる中、伝統的なものを残す、地域全体にアピールして郷土愛に目覚めさせるそのオブジェクトになったのが、400年の歴史を誇る鹿子踊でした。

 踊りに使う「かながら」になるドロノキ(Populus suaveolens)のカンナで薄く仕上げられた帯、その材料のドロノキの野生品の減少による問題解決に立ち上がりました。ドロノキの栽培方針を先進地の長野県上田市から教わり、実生を開始、苗も育ち始めました。公共所有の林地を借り受け、野生ドロノキの横で植栽を開始、しかしシカの食害を見るようになりました。その解決のためにネットを周辺部に張りました。その効果があり現在は順調に育っています。大槌、小鎚地区で35団体が鹿子踊を伝統的に行っていますが、将来的にはそのような団体も材の使用を可能にします。30~50年と長期のプロジェクトですが、伝統文化の要素も含み、支援助成には相応しい内容でした。注意を要するのが、近隣にあるシラカバの大木で、種子が飛び将来的にはドロノキと競争になる可能性を秘めています。

 同じ大槌町の特定非営利活動法人「サンガ岩手」ではアイ栽培でそれを原料に藍染めを行い、周辺部の人たちの癒しの場にしましたが、震災被害地の方ではない引きこもりの人までを参加者として招き、逆に被災の方から元気を貰うようなこともあったそうです。宮古市の中央通りでは、家族の中でも街路樹のハナミズキに抱きついた子供だけが助かったという話もありました。人と植物の出会いがすべてではありませんが、大事な要素ではあることを再認識して大阪に戻ってきました。帰りの便は三沢空港からでしたが、雪が舞い始めました。被災地の方々には厳しい季節の訪れです。一刻も早く全員の方が花を愛でれる環境になればと願い、白くなり始めた世界を後にしました。

岩手県大槌町

大槌町ではアイが癒しを与えてくれた
大槌町の伝統、人の繋がりをつくるドロノキ
踊の飾りにドロノキのかながらを利用

久慈市小袖の花好き増殖中

増殖中のベゴニア
植物栽培の成果を報告
目標を定め花や自然と親しむ

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