名誉館長の部屋

大人気のきのこ展

2020.01.04

第2回きのこ展が1月5日から開催されます。きのこは野生品や栽培品が食料とされるだけでなく、冬虫夏草やしいたけのように薬用に供されたり、べにてんぐたけのようにシベリアではシャーマンが幻覚状態になるために利用されたり、絵本の挿絵や服飾のデザインになったりもします。最近では観賞用になめこ、えのきたけ等がガラス容器内で苔と共に育てられます。このような魅力あふれるきのこの世界を博物館、グッズ制作、販売そしてきのこ愛好の関係者のお力添えで楽しく体感していただけます。また変形菌(粘菌)の紹介も行っています。詳細はHPイベント情報をご覧ください。

私たちはきのこと称して扱っていますが、傘や柄の部分は子実体と呼ばれ(真)菌の繁殖時に現れ胞子をつくります。常に存在する菌の部分が本体となります。菌は菌糸をのばし、菌糸から酵素を出して周囲の木材等を分解し、それを吸収して成長し、やがて子実体(きのこ)を作ることで人の目で観察できるようになります。そして短時間でしぼんだり、腐ったりします。また、菌でもきのこを作らない種類が沢山見られます。あおかびの場合、例えば餅の表面に出てくる粉の集まりのように見えるのは胞子の塊です。餅の中側に広がっている菌糸が本体なのです。

 

微生物とは

真核生物に属す(真)菌には前述のきのこ、かびの他に酵母も含まれます。

よく似た用語に細菌があります。菌(fungi)は人間や動植物と同様に細胞内に核を持ち、細胞の遺伝情報の保存と伝達を行いますが、細菌(bacteria)にはそのような能力はありません。細菌と呼ばれるのは乳酸菌、納豆菌、結核菌、大腸菌、シアノバクテリアなどお馴染みのものです。一方変形菌(粘菌slime molds)は(真)菌との類縁性は否定され動物、植物でもない原始的な生物扱いに現在なっています。そして動植物の世界では嫌われ者のウイルス(virus)は細胞がないので、種々の生物の細胞に入り、複製させ生きています。単独では増殖できないので、非生物扱いのこともあります。

 

自然での役割

以上紹介しました微生物や非生物は、自然環境の中では欠かすことのできない役割を担います。微生物には生産、消費、分解還元(還元)を担う三者が見られます。見えにくい地中、水中ですが、三者の働きによって物質循環が行われています。三者のうち、分解還元者として重要な働きをしている微生物は、菌類(細菌を含む)です。これらは生体分解還元者、死体分解還元者です。例えばしいたけをクヌギなどの榾木(ほたぎ)で育てていると材がボロボロに腐食されるので分かります。森や林で枯れた樹木や動物の死骸がきれいに処理されていくのも微生物のおかげです。また菌類や細菌は人間をはじめ動物の体内や植物の根圏において、養分を吸収する際に重要な役割をしています。

 

スウェーデンではシラカバの生える土地に多いべにてんぐたけ(スンツバルの娘の家の横)
スウェーデン・ノルウェー連合王国のカール14世ヨハンがこのきのこが食べれるのを広め食糧不足から救ったので北欧ではカールヨハンと呼ばれるポルチーニ、ここではきのこ狩りが盛んで土地の所有者に関係なく採取できる。

咲くやこの花館では

微生物は植物園をはじめ植物の栽培にも重要な役割を担っています。目立たない存在ですが、今後も地球規模で研究が急がれる分野です。咲くやこの花館での菌類との関わりを紹介します。

<サラソウジュなどのフタバガキ科の樹木やヤシの仲間ヨハネスティスマニア> 釈迦のクシナガラでの入滅はサラソウジュ(沙羅双樹 日本では耐寒性の問題からシャラ<ナツツバキ>を代替植物にしていますが、仏教での聖木はツバキ科のナツツバキではなく熱帯植物のサーラ。)の元であったとされていますが、そのフタバガキ科の樹木やマレー半島のヤシの仲間ヨハネスティスマニアなどは菌根菌がなければ枯死します。丈夫そうな熱帯植物の中には菌の助けが必要な植物が少なくありません。最近では失敗がありませんが、過去には知識不足で海外から大切に持ち帰った前記の植物を普通に育て、枯死させてしまったことがあります。菌根菌は、土壌中に張り巡らした菌糸から、主にリン酸や窒素を吸収して宿主植物(サラソウジュなど)に供給し、代わりにエネルギー源として宿主となる植物が光合成により生産した炭素化合物を得ることで、菌自身が成長します。

<ラン>

埃のようなランの種子の発芽にも菌根菌(蘭菌)が必要です。ランの種子には未成熟な胚しかなく胚乳もなく、ほとんど貯蔵養分を持っていません。そこで自然では菌根菌の助けで発芽に至ります。当館高山植物室の外側には針葉樹が育っていますが、その下ではシュンランが種子で殖えています。Bjerkandera sp.や Peniophora spといった落ち葉などを分解した養分をランに供給する菌根菌が、地中で発芽を助けているのでしょう。シュンランの培地はウチョウランなど他のラン科植物の発芽にも役立ちます(最近ではリグニンなどの含まれているダンボールを混ぜた用土でも発芽するので利用されています)。ランの人工栽培では自然とは逆に無菌状態で播種、人工的に果汁などの養分を供給しているので菌の必要はありません。

この他にも気が付かないうちに菌のお陰で元気に育っている植物が沢山あります。

 

動植物と共に生きる中で、微生物の世界は見えにくく、どうしても重要性が忘れられがちです。菌の子実体であるきのこは幸い親しみやすい姿をしています。時代とともに分類方法が変わり分かりにくい世界でもありますが、十分にイベントを楽しんでいただくとともに、私たちが生かされている地球の素顔に少しでも近づけるチャンスになればと願います。

 

 

 

 

 

<参考>

微生物等一覧

1 真核生物(細胞内に核を持ち、細胞の遺伝情報の保存と伝達を行います。)

*オビストコンタ(後方鞭毛生物

  • 真菌(きのこ、かび、酵母など通常菌類と呼ばれています)
  • メソミセトゾア(偽粘菌・中動菌)単細胞生物、魚類や動物に寄生、そのほとんどは真菌よりは動物に近縁

*アメーボゾア  

*動菌・粘菌     

   変形菌(真正粘菌)真菌との類縁性は否定され続け動物、植物でもない原始的な生物。モジホコリ、ムラサキホコリなど

   原生粘菌(プロトステリウム)

   タマホコリカビ類(細胞性粘菌)キイロタマホコリカビなど

*ストラメノパイル        

  • 卵菌 死んだ金魚などに生えるミズカビ等のなかま
  • ラビリンチュラ類 (水生粘菌とも呼ばれた) アメーバ様生物、吸収栄養を主とする生物群で、海草(イトモなど種子植物)や海藻(ワカメなど胞子植物)や陸上植物の枯死体といった有機物の表面に多く見られます。捕食性や寄生性の種もあります。ディプロフィルスは淡水プランクトンとして浮遊しています。

*リザリア

  • 植物と動物に寄生するネコブカビ類 (寄生粘菌とも呼ばれた)とアセトスポラ類、土壌中によく見られるケルコゾア、海洋底生生物の有孔虫、海洋プランクトンの放散虫など

2.細菌(バクテリア) 乳酸菌、納豆菌、結核菌など

3.古細胞(アーキア) 現在、古細菌が生息している環境は異常環境下です。熱水が噴出している海底や温泉が湧き出ているところの「好熱菌」、死海のように塩分濃度が高い環境を好む「高度好塩菌」、富栄養化した沼地の「メタン菌」などです。

 

<ウイルス 細菌の50分の1程度の大きさで小さく、自分で細胞を持ちません。他の生物の細胞を利用して複製を作る、感染性の構造体で、自己増殖はなく、非生物とも考えられます。>

 

菌根菌とともに生きるラン(シュンラン)
第2回きのこ展の風景(土日は沢山のショップなどが)
第2回きのこ展の風景

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