2020.04.24
毎年4月に開催されているエピメディウム(イカリソウ属)の展示即売会や通常展示は臨時休館に伴い中止になりました。ご来館予定のみなさま、関係者の方々にはご迷惑をおかけしました。世界でも類を見ないほど多くの野生種、園芸品種が展示されてきた背景、そしてイカリソウの素晴らしさをこのコーナーで紹介させて頂きます。尚この内容は2019年9月日本植物園協会の「植物園多様性保全ニュース<各園のコレクション>」で紹介されたものに加筆したものです。(本ブログの2019.4.3にも咲くやこの花館栽培のイカリソウ類の写真を今回同様に掲載しています。)
エピメディウムはトキワイカリソウEpimedium grandflorumや バイカイカリソウEpimedium diphyllumなどが昔から丈夫な山野草として栽培されてきた。日本産のエピメディウムは種類数が少ないが、自然交雑によると思われる変異が見られる地域もある。1970年代には広島県三次市でトキワイカリソウとバイカイカリソウの中間形を示す雑種スズフリイカリソウが、花色は紅紫色から白色,花形も大形から小形,距のないものからよく発達するものまであり,またその組み合わせもさまざまで,葉の形質も変異に富み1株として同じものがないのに驚かされたこともある。一方中国産は丈夫なホザキイカリソウが時折栽培されるくらいで、栽培されていなかった。イギリスのナーセリでは日本産と欧州産などのハイブリッド ‘Sulphreum’ ‘Versicolor’などが扱われていたが、中には南欧のEpimedium alpinum, トルコやブルガリアのE.pubigerum、アルジェリアのE.perralderianumなど原種も含まれ1970年代には日本で栽培していた。キュー植物園の高山植物部門のキューレーターBrian Halliwell氏 からはイランのE.pinnatum ssp.colchicumも送られてきた。
そのような状況下、1980年には中国が四川省の山岳部の一部を開放した。1981年5月中国植物研究家の荻巣樹徳氏、森和男氏、岐阜県大湫植物園の山口清重氏、横浜の広瀬農園の広瀬憲二氏など7名のメンバーで四川省に向かう。上海植物園に立ち寄り圃場も見せて貰う。コレクションのAsarum(カンアオイ類)に詳しいメンバーもおり、上海植物園の職員と分類上での議論が始まり終わりそうもない。四川省の成都ではまず四川大学を訪問、植物関係の教授や主任7人が出迎えて下さった。我々の質問は中国原産植物の書籍出版で、分野毎の細かい質問は見合わせた。四川大学側からは高山植物の栽培方法、日本での植物関係の組織の質問があった。幸い持参していた「日本ロックガーデン協会」の会報に栽培法の記事を書いていたので解説、そして寄贈をした。後ほど大学のさく葉室の窓辺に泥で植えこまれたシャクナゲの鉢植えが枯死しているのを発見、質問された理由が分かった。四川大学所蔵のさく葉標本を調べるために広い校内を案内して貰う。Epimediumや門外不出だった銀杉(Cathaya argyrophylla)の標本を見せて貰う。Epimediumの標本には、登山の許可のでている峨眉山のものとして、Epimedium davidii,E.cordatum, E.micranthum, E.elongatum, E.komoroviがあった。四川省内ではE.pubescens, E.sutchuense, E. platypetalum, E.fargesiiが採集されていた。そして分類学者として尊敬する四川大学植物分類学教授で英国エジンバラ大学博士の方文哉先生に標本と資料で埋まった部屋に招かれたのも幸いであった。先生は1940年代には「峨眉植物図譜」全4巻を出版されていた。そしてその後、荻巣樹徳氏は方先生や協力者の尽力があって念願の四川大学の研修生になり、Epimediumをはじめとした分類などに専念できたのである。
翌日には目的の標高3099mの峨眉山を目指した。そこは興味深い花の世界、低地ではベゴニア、タガネラン、トビカズラ、プレオネ、プリムラ、Cypripedium henryi, 中腹ではハンカチノキの大木が花盛り、キソエビネに似たCalanthe fimbriata,イワウチワに近縁のBernexia thibetica、ハッカクレンの仲間のDysosma veitchiiなど、頂上付近にはサクラソウでもペティオラーレス節に属すPrimula sonchifoliaが魅力的な薄紫の花を、シャクナゲ類やシナコハクランも見られる。多数の山野草の中でも、低地で見られた大柄のイカリソウEpimedium acuminatum そして山籠もり3日目、中腹の九老洞付近では驚きのイカリソウが見られた。黄色の花をつけるE.fangiiiとE.acuminatumの自然交配と思われる株で、ツートンカラーの美しい花だった。その株は谷合の近づきにくい場所に生えており、花の写真を撮影していると仏教聖地でもあるこの山を楽しむ中国の人たちの注目の的に。
魅力的なイカリソウを見たり、重慶近くでシランBletilla の黄色、チョコレート色、純白色などの群生が見つかったりと、四川、雲南をはじめ中国各地に峨眉山を訪ねたメンバーは活動し始めた。中でも荻巣氏は、許可を貰いEpimediumの生きた株の入手、さく葉づくりに尽力、新種としての発表も行って来られた。このような努力で現在日本をはじめ海外でも増殖株などが栽培されるようになった。荻巣氏の導入されていた中国産植物は兵庫県山崎にあった伝統園芸植物研究所が閉鎖された折に、高知県立牧野植物園と咲くやこの花館へも譲渡がされ現在も栽培がされている。一方交雑品が作出され今迄想像もできなかった姿、花色のものも出回り始めた。多くのEpimediumは暑さにも強く丈夫で長寿である。40年以上前に入手した株でも庭で生き続けているのには驚かされる。園芸用の植物として花期の短さが残念だが、葉も魅力的で紅葉の美しいものもある。増殖も容易で長生き、このようなEpimediumの展示即売会を2000年から咲くやこの花館で大々的に行っている。これらは荻巣氏や育種家の池田真樹氏のおかげでもある