2020.04.26
今、世界中に犠牲者を増やし続けているウイルスによる罹病(りびょう/病気にかかること)ですが、植物園でも最大の悩みのひとつです。20万人にも及ぶ犠牲者の方々のご冥福をお祈りいたします。
目で見えるものはある程度安心ですが、菌のような微生物、そしてウイルスのような電子顕微鏡でしか見えない微小な物体には、通常は勘で当たらなければなりません。大切な植物の場合高額ですがウイルス検定を行って貰う場合もあります。ウイルスは細胞のない物体で、他の生物の細胞を利用して複製をつくる生物とも物体とも決めかねる存在です。また、ウイルスは種類も多く、悪者だけでなく、人類の誕生や進化に寄与してきたものもあるそうです。植物での症状、例えば葉にあらわれるのはモザイク斑(はん)などと呼ばれ、不規則にはいった斑(ふ)はウイルスによるものか単なる斑(ふ)かの見分けがつかないこともしばしばです。また、罹病株でも見かけはマスク(mask)され健全株に見えることもあります。一度ウイルス罹病株となると治らないのが定説です。(余談ですが、最近話題のマスク(mask)、京大農学部の大学院の試験で「マスクメロンの意味を書け」がでて驚かされたことがありました。正解は「麝香(musk)のような芳香のメロンの総称。主にアールスフェボリット及びその系統で、特定の品種名ではない」でした。何だか最近のテレビのクイズ番組用ですね)
<植物のウイルス検定法>
*世界各地の荒地に見られるアカザ(タデ科)に検定する植物の汁液を接種、ウイルス罹病株かどうかは1-2週間で判別、昔からある簡易な生物検定法。*電子顕微鏡観察 *PCR 韓国での新コロナウイルス検査で有名になったポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)は遺伝子増殖法 その他にも検査方法があります。
咲くやこの花館では開館以来、ウイルス罹病には悩まされ続けてきました。その被害はあらゆる植物に及び、熱帯スイレンの全て、ハイビスカス約150品種、タイワンクマガイソウの120芽程度の群落、珍しい海外のユリやその仲間のノモカリス、種々のランなど枚挙にいとまがありません。ウイルス罹病はアブラムシなどが、口針を植物の維管束にさし師管液を吸う際に侵入罹病が起こります。そのためにアブラムシなどの退治を行います。また一旦罹病すると、その植物が他の同類のものに接触しただけでも伝染させるのです。罹病株を手で触り他の健全な株を触ると、健全株も罹病することが多いです。
そこで、症状の出ている株は初期段階で処分します。また、ハサミを使う場合は、ある株に使うと他の株には絶対使いません。消毒された新たなハサミにかえていきます。使用後のハサミはウイルスの死滅する第三リン酸ナトリウムまたは次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)に漬けたり、時にはバーナーの炎であぶったりもします。また、人の三密防止同様に、ウイリスの伝染しやすい同じ属の植物を触れ合うような状態には置かないようにします。私自身も、カンランの隣はイカリソウ、カンアオイ、ギボウシ、シライトソウ、ハッカクレンなどと、分類上バラバラにしてアタックされるウイルスの種類が違うもの同士を並べています。ただラン科のカンランやシュンランなどのシンビジュームとエビネ(カランテ)は属が違いますが、接触させるとシンビジュームモザイクウイルスにより二者の間で感染するようです。見えない世界のややこしい関係です。幸い罹病株の種子に関しては、さやなどに接触しないで落下すると通常ウイルスフリーになります。確かに一度リセットが無ければ、自然界の植物がウイルス漬けになります。人工的になりますが、ウイルス罹病株でも葉の先端など生長のために細胞分裂が起こる生長点の部分を切り取り無菌培養すると、ウイルスフリー株を入手できます。また、植物の場合、動物と人間の間のようにウイルスのうつしあいは聞いたことがありません。
目に見えない敵と戦う、植物の栽培の係員は気の休まる暇もありません。
今、その上に新型ウイリスによる職員同士の感染を防ぐために、栽培員は班に分けてバラバラで作業、休憩も複数個所で、万一のケースを防ぐようにしています。電気等の管理や保安管理は年中無休で、植物管理は正月の一日を除き大切な植物を守っています。
そして健全な状態で開花を迎える、みなさんに見ていただける、喜びのひとときになります。