ETV 趣味の園芸
10月11日(日)8:30~ 再13日(火)10:25~ 15日(木)13:30~
伊丹市でのカワラナデシコ保護地
2020.10.09
ETV 趣味の園芸
10月11日(日)8:30~ 再13日(火)10:25~ 15日(木)13:30~
伊丹市でのカワラナデシコ保護地
ETV 趣味の園芸
10月11日(日)8:30~ 再13日(火)10:25~ 15日(木)13:30~
咲くやこの花館では高山植物室でシナノナデシコやタカネナデシコそしてカワラナデシコのなどをご覧いただいています。欧州産のデイアンツス・アルピヌス(英語ではダイアンサス)などの展示も行いますが、300種類あまりのナデシコ属(ディアンツス)は変化に富んでいます。
今回、『NHK趣味の園芸』10月号、万葉の花シリーズ7回目で「なでしこ」が取り上げられました。万葉の花ということになると『万葉集』、なでしこは26首詠まれています。大伴家持(718?~785年)は「なでしこ」を11首も残し、その惚れ方が伝わってきます。「わが屋外(やど)に蒔きし瞿麦(なでしこ)いつしかも花に咲きなむ比(なぞ)へつつ見む」と詠んでいます。観賞のために植物の種子を播いたとても古い記録と言えるでしょう。万葉集の舞台にはハマナデシコ、シナノナデシコなども含まれるでしょうが、理想の人に重ね合わせているところから、カワラナデシコに違いありません。淡いピンクの花の醸し出すやさしさ、他の草に寄り添う姿、その一方で草いきれや乾燥にも耐えて育つ健やかさ、日本の歴史の中で長く親しまれてきたカワラナデシコが、最近身近で見かけることが少なくなってきました。草刈りを行い、里山や草地の環境が失われたせいかも知れません。草刈りを鎌で行っていた時代であれば、カワラナデシコを見つけると、きっと手を止め、花を愛でていたのではないでしょうか。また、草刈りをされないと、カワラナデシコは背の高い草に光を奪われ、徐々に姿を消していくでしょう。
最近は万葉人が愛した花を滅ぼさないようにと、力を注がれる方もいらっしゃいます。伊丹市の猪名川、万葉集の歌の舞台としても知られる河原では、2013年から保護活動が始められました。阪神シニアカレッジ在学中に、「昭和時代までは猪名川のあちこちで見られたカワラナデシコは、河川の改修や外来種の繁茂等で、絶滅の危機に瀕している」こと知った10名が、「なでしこ・10」(会長:谷垣剛氏)を立ち上げ、「兵庫県立人と自然の博物館」の服部保氏指導の下、現地のカワラナデシコの遺伝子にこだわりながら種子から増殖されてきました。かろうじて残っていた20株を2000株に増殖、また阪神シニアカレッジの別のグループ「ナデシコガーデンズ」(会長:近藤富雄氏)が自然保護の授業の影響を受け、隣接地でカワラナデシコの保全に努められています。野生植物の保護は各地で実践されていますが、伊丹市では阪神間の方々などが理想的に活躍されていると思います。
『万葉集』の中に山上憶良が「秋の七草」を詠っていますが、それらの中でフジバカマ、キキョウ、ナデシコが万葉時代のものと、現在種子や鉢物として販売されているものが違っているケースが多いのは残念なことです。HPでフジバカマの画像を見ても、本物はわずかで、多くは類似の他種です。万葉の野生のキキョウは花数も少なく趣きのあるものですが、販売されているものの多くは園芸化した多花性のものです。万葉のカワラナデシコはピンクの愛らしい花で、分類上では花の付け根にある苞が3~4対です。花屋さんで赤や白い花のものをカワラナデシコの名で見かけますが、多くは苞が2対のエゾカワラナデシコです。エゾカワラナデシコは名前のように北海道~中部地方、そしてユーラシアの中部、北部に広く分布しています。そこで欧州でも園芸化が進み、色違いなどが販売されています。その流れで日本でも販売され、カワラナデシコの名前で、しかも万葉の・・・・まで、カワラナデシコはエゾカワラナデシコの変種で本州~沖縄、朝鮮半島、中国に見られます。カワラナデシコの花茎は直立しますが、根元で花の咲かない茎が横に広がることがあり、鉢物としては扱いにくい要素もあります。種々の理由で代替品に置き換えられている植物を見かけます。名札の誤り、植物園で仕事をするスタッフの悩みですが、イギリスの植物園での仕事中にも名札と植物との食い違いを ‘wrong’と言い、暗い雰囲気になりました。
カワラナデシコの場合は、分類は忘れて、やかもち君(大伴)が、種子を播くまでほれ込んだ、愛する人を思わせる、やさしいピンクの花色を育てられたら、万葉の世界にひたることができると思います。