名誉館長の部屋

ユリ属の節をDNAと形態でまとめて受賞

2022.10.18

京都大学大学院理学研究科生物科学専攻の渡邉誠太氏の研究

世界に100種類以上みられるユリの仲間(属)、日本はユリの国と呼ばれるほど美しいユリが自然に見られます。ササユリ,オトメユリ、ヤマユリ、カノコユリ・・・いずれも人気があり、1900年代には国内で採集された球根が欧米に大量に輸出されました。このように魅力的なユリの分類は属、種、その間に節(セクション)を設け系統別に整理されます。ところが70年以上前の分類は昨今のDNAによるものとは異なりました。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻で、博士課程を収められた、渡邉誠太氏はユリに興味を持ち、田村実教授、布施静香准教授のもと、DNAと形態での分類に取り組み始められました。咲くやこの花館にも通われ、遺伝子を調査するために、栽培中のユリ属の葉の一部を研究用に利用されました。渡邉誠太氏は国内外の関係者からサンプル入手に努力をされ、DNAと形態のデータを蓄積されました。それを元に、論文にまとめられて、日本植物分類学会論文賞を受賞されました。おめでとうございます。以前、私は1949年のH.コンバーによる節を紐解いて、節のグループ毎に1種ずつ確認して、雑誌にユリ属を紹介したことがあります。その時何となく腑におちない部分がありました。今回のDNAと形態による研究で節の見直しがされています。ササユリとオトメユリは今迄同じヤマユリ節でしたが、DNAと形態では2者は異なる節になりました。2014年にはノモカリス(属)10種がユリ属に組み替えられました。今迄ノモカリスはユリとは姿が違い別属だったのですが、ユリ属エクリスタタ節になっています。想像があてにならない場合があるのが良くわかりました。余談ですが、私たち分類を専門としない者は、花、姿、生態など新鮮な個体で種類の違いを確認しますが、分類学者は乾燥標本で確認するケースが多かったのでしょう。そこで乾燥標本を「冬の庭園」という名称で1606年にスピーゲルによって使われ始めました。牧野富太郎の小説『ボタニカ』(朝井まかて著2022年)の中でも「冬の庭園」(=乾燥標本)で表現されています。

私が英国王立キュー植物園に留学していた時に、「ヘベリアム(さく葉標本室)」の分類学者は、生きた植物では名前が分からないケースがあると聞いたことがあります。同じ話を京大の渡邉氏も話されていました。そして今回、DNA、「冬の庭園」、「生きている株」も情報に加えて節の識別をされたそうです。渡邉さま、調査研究お疲れ様でした。

Biosystematic Studies on Lilium (Liliaceae) I. Phylogenetic Analysis Based on Chloroplast and Nuclear DNA Sequences and a Revised Infrageneric Classification

 

各地のユリ関係者から材料を
日本原産のササユリとオトメユリは似ているが同じセクションではない結果に
ササユリは中部地方以西、オトメユリは東北地方に分布

2014年ノモカリスがリリウム(ユリ属)に

ユリらしくないが、今はリリウム・パルダンティヌム(以前はノモカリス)、雲南、四川原産
リリウム・バシリッスム(以前はノモカリス) 雲南、ミャンマー原産

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